アレロパシー活性化合物~植物の自己防衛化学兵器~
植物がつくる化学兵器:アレロパシー活性化合物
アレロパシー(植物他感作用)とは植物同士のなんらかの相互作用を意味します。例えば、ある植物はある化学物質を生産して放出し他の植物に何らかの作用を示します。アレロパシー現象を詳細に解析し、その活性を示すアレロパシー活性化合物(アレロケミカル)を突き止めることができれば、天然由来の農薬ができるかもしれません。我々は植物生態学、植物生理学の先生方と共同して、アレロケミカルの合成や分子変換を通して環境に優しい農薬への応用展開を研究しています。
アレロパシー(植物他感作用)とは植物同士のなんらかの相互作用を意味します。例えば、ある植物はある化学物質を生産して放出し他の植物に何らかの作用を示します。アレロパシー現象を詳細に解析し、その活性を示すアレロパシー活性化合物(アレロケミカル)を突き止めることができれば、天然由来の農薬ができるかもしれません。我々は植物生態学、植物生理学の先生方と共同して、アレロケミカルの合成や分子変換を通して環境に優しい農薬への応用展開を研究しています。
植物の生存戦略
植物は根を地面に張りそこで一生過ごします。天敵が襲ってきても逃げたり噛みついたりすることはなかなかできませんね(食虫植物は確かにありますが・・・)。植物はどうやって身を守り、種の保存を図り、繁栄させてきたのでしょう?ある種の植物は「化学兵器」を作って植物間の生存競争や細菌、カビなどの外敵との戦闘に打ち勝ってきたことがわかってきました。
植物は根を地面に張りそこで一生過ごします。天敵が襲ってきても逃げたり噛みついたりすることはなかなかできませんね(食虫植物は確かにありますが・・・)。植物はどうやって身を守り、種の保存を図り、繁栄させてきたのでしょう?ある種の植物は「化学兵器」を作って植物間の生存競争や細菌、カビなどの外敵との戦闘に打ち勝ってきたことがわかってきました。
なぜいい香り?
森林浴や草原で何となくいい香りを感じることは誰でも経験のあることでしょう。植物はなぜこのような香り物質を放出するのか?人間をいい気分にさせても、特に植物にはメリットはないですよね。こういった役割不明の植物産生分子を二次代謝産物といいますが、最近、こういった分子が植物の生存戦略に重要な化学兵器であることがわかってきました。すなわち、こういった分子が他種の植物の発芽や生長を抑制したりするのです。
森林浴や草原で何となくいい香りを感じることは誰でも経験のあることでしょう。植物はなぜこのような香り物質を放出するのか?人間をいい気分にさせても、特に植物にはメリットはないですよね。こういった役割不明の植物産生分子を二次代謝産物といいますが、最近、こういった分子が植物の生存戦略に重要な化学兵器であることがわかってきました。すなわち、こういった分子が他種の植物の発芽や生長を抑制したりするのです。
強い植物?
ヒマワリ、アカマツ、ユキヤナギ・・・・・ある種の植物の周囲には雑草が生えにくいことが知られています。秋にセイタカアワダチソウが群落を形成し他の植物を蹴散らしてしまいますね。こういった植物は強力な化学兵器をつくって、周囲にばらまいて他の植物の生長を邪魔しているのです。
ヒマワリ、アカマツ、ユキヤナギ・・・・・ある種の植物の周囲には雑草が生えにくいことが知られています。秋にセイタカアワダチソウが群落を形成し他の植物を蹴散らしてしまいますね。こういった植物は強力な化学兵器をつくって、周囲にばらまいて他の植物の生長を邪魔しているのです。
1. Xanthanolides(キサンタノリド)の合成と作用
Xanthatin (キサンタチン)はオナモミ(引っ付きむし)から抽出されたアレロパシー活性化合物です。現在までに植物生長阻害作用に加えて多くの生体作用が確認されておりますが微量成分のため植物生理学的、生物化学的な研究はなかなか進んでいません。我々は xanthanolides の大量供給可能な合成法の開発を目指し研究を進めました。作用機構の解明は植物同士の情報伝達法を知ることになり、将来は除草剤などの農薬への展開も期待されています。我々はxanthanolidesの効率的全合成に成功しました。さらに大量供給可能な合成法の開発にも成功しました。
Org. Lett. 10, 1247 (2008); Tetrahedron 66, 8407 (2010); Tetrahedron 69, 1043 (2013)
全合成研究はいくつもの新しい化学反応の発見に導いてくれます。キサンタノリドの合成研究の過程でアルキルリチウムによる7員環構築法、銅触媒によるWittig-ラクトン化によるブテノリドのワンポット合成法、マロン酸の非対称化法などの新反応を見出しました。だから、合成研究は一度やったらやめられないのです!
この系統のセスキテルペンは過去の合成例が少ないにも関わらず、様々な生体作用が期待されています。
Org. Lett. 10, 1247 (2008); Tetrahedron 66, 8407 (2010); Tetrahedron 69, 1043 (2013)
全合成研究はいくつもの新しい化学反応の発見に導いてくれます。キサンタノリドの合成研究の過程でアルキルリチウムによる7員環構築法、銅触媒によるWittig-ラクトン化によるブテノリドのワンポット合成法、マロン酸の非対称化法などの新反応を見出しました。だから、合成研究は一度やったらやめられないのです!
この系統のセスキテルペンは過去の合成例が少ないにも関わらず、様々な生体作用が期待されています。
Xanthatinが乳がんの特効薬となるか?!
植物に対してはキサンタノリドの活性は現時点ではあまり強いものは見出されていません・・・・・しかし、Xanthatinはもともとオナモミの毒性分ですから動物にも作用がるはずです。実際に、抗MRSA活性や細胞毒性など断片的な論文は見受けられます。しかしながら、量的にもそれほどあるものではないので系統的研究はほとんど報告がありませんでした。
我々は合成で純粋なキサンタチンを作りました。そして第一薬科大学の荒牧弘範教授、竹田修三准教授(広島国際大学薬)との共同研究で、Xanthatinが悪性ヒト乳がんの強い細胞増殖抑制作用を示すことがわかりました。更なる研究でガン抑制遺伝子GADD45γを特異的に発現誘導することを見出しました(Chem Res Toxicol 2012)。さらに活性酸素産生、トポイソメラーゼの阻害などの複合要因であることも分かってきました(Toxicology305, 1, (2013)。もしかしたら有望な抗がん剤候補になるかもしれません。(第一薬科大・荒牧研との共同研究)
有機合成で純粋な化合物を必要量を合成したからできた発見ともいうことができます。
植物に対してはキサンタノリドの活性は現時点ではあまり強いものは見出されていません・・・・・しかし、Xanthatinはもともとオナモミの毒性分ですから動物にも作用がるはずです。実際に、抗MRSA活性や細胞毒性など断片的な論文は見受けられます。しかしながら、量的にもそれほどあるものではないので系統的研究はほとんど報告がありませんでした。
我々は合成で純粋なキサンタチンを作りました。そして第一薬科大学の荒牧弘範教授、竹田修三准教授(広島国際大学薬)との共同研究で、Xanthatinが悪性ヒト乳がんの強い細胞増殖抑制作用を示すことがわかりました。更なる研究でガン抑制遺伝子GADD45γを特異的に発現誘導することを見出しました(Chem Res Toxicol 2012)。さらに活性酸素産生、トポイソメラーゼの阻害などの複合要因であることも分かってきました(Toxicology305, 1, (2013)。もしかしたら有望な抗がん剤候補になるかもしれません。(第一薬科大・荒牧研との共同研究)
有機合成で純粋な化合物を必要量を合成したからできた発見ともいうことができます。
2.シス桂皮酸のアレロパシー
ユキヤナギから単離構造決定されたシス桂皮酸配糖体は強い生長阻害活性を示すことが農環研の藤井先生(当時、現・東京農工大教授)、平館先生(現・九州大学教授)により見出されました。写真にあるようにレタスの幼根の生長阻害が顕著です。我々はこの単純な構造に着眼し、シス桂皮酸配糖体を合成し(意外に大変でした)その構造と活性を証明したうえで、この構造活性相関研究とより強い植物生長阻害剤の開発を進めました。その結果、天然を超える活性の類縁体も見出しました。
Tetrahedron Lett. 52, 5688 (2011); Phytochemistry 84, 56 (2012); Phytochemistry 96, 132 (2013); 96, 223 (2013).
Tetrahedron Lett. 52, 5688 (2011); Phytochemistry 84, 56 (2012); Phytochemistry 96, 132 (2013); 96, 223 (2013).
シス桂皮酸誘導体ライブラリーの合成
シス桂皮酸の誘導体を300種類以上合成し、さらに増やしています。この中から強力な植物成長調整剤を見つける試みを進めています。
シス桂皮酸の誘導体を300種類以上合成し、さらに増やしています。この中から強力な植物成長調整剤を見つける試みを進めています。
シス桂皮酸はどこに作用しているか?
このような単純な構造のシス桂皮酸が天然物としては強力な生長阻害作用を示すのはどうしてでしょうか。我々はその作用機序に興味を持ち化学的なアプローチを行うこととしました。まずはシス桂皮酸を光らせてみることにしました。生物活性を保持したまま蛍光基を導入した分子を苦労して合成し、レタスの幼根に振り掛けてみたところ、根の先端が光ることがわかりました。今後、分子遺伝学的なアプローチや作用生体高分子を捕まえることで作用機序が解明されるでしょう。Tetrahedron 72, 6492(2016)・・表紙を飾りました.
このような単純な構造のシス桂皮酸が天然物としては強力な生長阻害作用を示すのはどうしてでしょうか。我々はその作用機序に興味を持ち化学的なアプローチを行うこととしました。まずはシス桂皮酸を光らせてみることにしました。生物活性を保持したまま蛍光基を導入した分子を苦労して合成し、レタスの幼根に振り掛けてみたところ、根の先端が光ることがわかりました。今後、分子遺伝学的なアプローチや作用生体高分子を捕まえることで作用機序が解明されるでしょう。Tetrahedron 72, 6492(2016)・・表紙を飾りました.
3.重力屈性阻害剤~植物の「三半規管」をかく乱する
重力屈性阻害剤の発見
さて、ここで根の先端部分がどんな役割をしているか、植物生理学の教科書を紐解くと、重力屈性のセンサーがあることがわかりました。もしここに作用しているとしたら?重力屈性、即ち、根っこが下に向かって伸びる性質ですが、これを乱すことができるのではないか、と考えました。そこでシス桂皮酸の構造活性相関研究で蓄積した200種類を超える誘導体ライブラリーから和佐野博士,藤井義晴教授(東京農工大)がスクリーニングしたところ、重力屈性を強く阻害する化合物を見つけました。これまで報告された重力屈性阻害作用を示す化合物はたいてい伸長も阻害するのですが、我々が見出した化合物は強力に「重力屈性だけ」特異的に阻害するのです。さらに分子設計と合成を進めて最高5nMでも作用する化合物を作り出すことに成功しました(特開2016-160246)。
さて、ここで根の先端部分がどんな役割をしているか、植物生理学の教科書を紐解くと、重力屈性のセンサーがあることがわかりました。もしここに作用しているとしたら?重力屈性、即ち、根っこが下に向かって伸びる性質ですが、これを乱すことができるのではないか、と考えました。そこでシス桂皮酸の構造活性相関研究で蓄積した200種類を超える誘導体ライブラリーから和佐野博士,藤井義晴教授(東京農工大)がスクリーニングしたところ、重力屈性を強く阻害する化合物を見つけました。これまで報告された重力屈性阻害作用を示す化合物はたいてい伸長も阻害するのですが、我々が見出した化合物は強力に「重力屈性だけ」特異的に阻害するのです。さらに分子設計と合成を進めて最高5nMでも作用する化合物を作り出すことに成功しました(特開2016-160246)。
ku-76を植物に与えると重力方向に曲がらない!
重力屈性阻害剤は新しい農薬か?
重力屈性を阻害すると、植物は上下の区別がつかなくなり(人間でいえば三半規管が麻痺したようなもの)生長が抑制されたり蔓がまきつかなくなったりと、従来の除草剤とは違った抑草効果が期待されます。天然からヒントを得た新しい農薬開発の夢が広がります。
重力屈性を阻害すると、植物は上下の区別がつかなくなり(人間でいえば三半規管が麻痺したようなもの)生長が抑制されたり蔓がまきつかなくなったりと、従来の除草剤とは違った抑草効果が期待されます。天然からヒントを得た新しい農薬開発の夢が広がります。
分子化学生態学へ
化学生態学や植物生理学の分野におけるアレロパシー現象の分子レベルの研究は緒に付いたばかりです。sundiversifolideのように微量天然物は化合物が無ければ研究が始まりません。植物は種の保存を図るためこのような化合物を放出しますが、活性が強すぎると自家中毒を起こしたり、生態系のバランスが崩れて共倒れになるので、ほどほどの活性を示すモノを作っています。ここで有機合成の出番です。天然にない強力な活性物質を作ることも可能です(ただし乱用すると生態系が崩れます)。農薬や植物生長制御剤の開発に向けて有機合成が活躍します。さらに、作用機構を調べる上で有用なプローブ分子の合成も進めています。もしかしたら新規農薬になるかも!?(東京農工大・藤井研との共同研究)
化学生態学や植物生理学の分野におけるアレロパシー現象の分子レベルの研究は緒に付いたばかりです。sundiversifolideのように微量天然物は化合物が無ければ研究が始まりません。植物は種の保存を図るためこのような化合物を放出しますが、活性が強すぎると自家中毒を起こしたり、生態系のバランスが崩れて共倒れになるので、ほどほどの活性を示すモノを作っています。ここで有機合成の出番です。天然にない強力な活性物質を作ることも可能です(ただし乱用すると生態系が崩れます)。農薬や植物生長制御剤の開発に向けて有機合成が活躍します。さらに、作用機構を調べる上で有用なプローブ分子の合成も進めています。もしかしたら新規農薬になるかも!?(東京農工大・藤井研との共同研究)
4.Karrikinolide
春の野焼き
春の野焼きや焼畑農業にはどんな意義があるのでしょう?枯草を燃やすことで古い葉を灰分にして土をアルカリ性にする、虫の卵や細菌を死滅させるなどで新たな芽吹きを促し草地の環境保全を行っているとされています。近年、Flematti博士らは野焼きの煙成分の中に発芽促進作用があることを見出し、その成分であるKarrikinolideを見つけました。これがまた実に簡単な構造式です。
春の野焼きや焼畑農業にはどんな意義があるのでしょう?枯草を燃やすことで古い葉を灰分にして土をアルカリ性にする、虫の卵や細菌を死滅させるなどで新たな芽吹きを促し草地の環境保全を行っているとされています。近年、Flematti博士らは野焼きの煙成分の中に発芽促進作用があることを見出し、その成分であるKarrikinolideを見つけました。これがまた実に簡単な構造式です。
我々はこの化合物の効率的合成法の開発に成功し、活性試験などを進めています。
Tetrahedron 67, 971 (2011)
PLOS Genetics, 16 (12): e1009249 (2020). [LINK]
Tetrahedron 67, 971 (2011)
PLOS Genetics, 16 (12): e1009249 (2020). [LINK]
植物にはまだまだ分からないことが多いですね。