生体作用分子の設計・合成・機能
有機合成化学の魅力は機能性分子を設計、合成し、純粋で十分な量を手に取ることができる点にもあります。我々はさまざまな天然もしくは非天然の生体作用分子を合成し、更にその構造をヒントに分子設計を行い作用機序の解明、分子機能の改変や強化を図ります。有機合成化学の力で生命の謎に迫るとともに、医薬品や農薬といった付加価値の高い有用分子の開発へと展開します。最近ではケミカルバイオロジーという言葉もよく耳にするでしょう。化学者が取り組む生物学と訳されますが、医薬化学や生物有機化学、天然物化学も巻き込んで大きな流れになっています。
(1)細胞死制御剤~アポトーシスの制御へ
アポトーシス
アポトーシスとは遺伝子に組み込まれた細胞死、即ち「自発的細胞死」です。生命活動に必須のアポトーシスは分子生物学分野での最もホットな研究課題の一つです。アポトーシスのメカニズムを明らかにし、人為的に制御することに対して有機合成化学はどのようにして貢献できるでしょうか?
アポトーシスとは遺伝子に組み込まれた細胞死、即ち「自発的細胞死」です。生命活動に必須のアポトーシスは分子生物学分野での最もホットな研究課題の一つです。アポトーシスのメカニズムを明らかにし、人為的に制御することに対して有機合成化学はどのようにして貢献できるでしょうか?
BKAの合成
Bongkrekic acid (BKA)はココナッツの発酵食品の雑菌から単離された毒素です。これはミトコンドリアの内膜にある 膜タンパク質であるATP/ADP 輸送担体(ANT)に結合してその機能を阻害する、即ち ATPの生産を止めてしまうことがその作用機序ですが、最近になりこの作用がアポトーシスを阻害する機能とリンクしていることが明らかとなり、分子生物学の分野で重要なツールとなっています。しかし、天然からごく微量しか得られない上に実践的合成例も なかったため、その供給法に問題がありました。我々は10年前、BKA の全合成に成功し大量供給の道筋をつけました(この論文はTetrahedron Letters の表紙 を飾りました)。さらにその合成法は改良が加えられ、現時点で工程数は約半分、総収率は10倍以上向上しています。
Tetrahedron Lett. 45, 8862 (2004); Chem. Eur. J. 21, 11590(2015)
Bongkrekic acid (BKA)はココナッツの発酵食品の雑菌から単離された毒素です。これはミトコンドリアの内膜にある 膜タンパク質であるATP/ADP 輸送担体(ANT)に結合してその機能を阻害する、即ち ATPの生産を止めてしまうことがその作用機序ですが、最近になりこの作用がアポトーシスを阻害する機能とリンクしていることが明らかとなり、分子生物学の分野で重要なツールとなっています。しかし、天然からごく微量しか得られない上に実践的合成例も なかったため、その供給法に問題がありました。我々は10年前、BKA の全合成に成功し大量供給の道筋をつけました(この論文はTetrahedron Letters の表紙 を飾りました)。さらにその合成法は改良が加えられ、現時点で工程数は約半分、総収率は10倍以上向上しています。
Tetrahedron Lett. 45, 8862 (2004); Chem. Eur. J. 21, 11590(2015)
構造活性相関研究
さまざまな誘導体を合成し構造活性相関研究を行っています。次第にその活性本体の姿が見えてきました。また、単純化した構造でも強い阻害活性を示すことも最近になり分かってきました。近い将来、大量合成可能な阻害剤が開発され、さらに多くの研究者に利用されるようになるでしょう。
ChemResToxicol 25, 2253 (2012)
さまざまな誘導体を合成し構造活性相関研究を行っています。次第にその活性本体の姿が見えてきました。また、単純化した構造でも強い阻害活性を示すことも最近になり分かってきました。近い将来、大量合成可能な阻害剤が開発され、さらに多くの研究者に利用されるようになるでしょう。
ChemResToxicol 25, 2253 (2012)
新発想の阻害剤とその展望
ターゲットである膜タンパク質は扱いにくい生体高分子です。そのタンパクを安定化している生体膜の特性を利用した新たな阻害剤もしくは分子プローブを開発しようと考えています。それは阻害メカニズムの解明、ATP輸送機構の解明、ATP 合成阻害とアポトーシス阻害の機能分離、アポトーシス関連医薬品へと展開します。
ターゲットである膜タンパク質は扱いにくい生体高分子です。そのタンパクを安定化している生体膜の特性を利用した新たな阻害剤もしくは分子プローブを開発しようと考えています。それは阻害メカニズムの解明、ATP輸送機構の解明、ATP 合成阻害とアポトーシス阻害の機能分離、アポトーシス関連医薬品へと展開します。
他分野の研究者との共同研究
北大院薬・原島教授、山田准教授との共同研究でミトコンドリアに選択的に輸送するリポソームMitoPorterを使用することで活性が飛躍的に向上することも分かりました。
J. Pharm Sci. 102, 1008-1015 (2013).
第一薬科大学の荒牧教授、広島国際大学の竹田准教授との共同研究でペルオキシソーム増殖因子活性化受容体PPARγを選択的に活性化することを見出しました。抗糖尿病作用が期待されます
J. Toxicological Sci. 40, 223 (2015).
徳島大学の篠原教授との共同研究で「構造単純化BKA」がATP輸送作用を阻害することも見出しました。BKAの代替になりそうです。Chem Biol Drug Des 86, 1304 (2015)
北大院薬・原島教授、山田准教授との共同研究でミトコンドリアに選択的に輸送するリポソームMitoPorterを使用することで活性が飛躍的に向上することも分かりました。
J. Pharm Sci. 102, 1008-1015 (2013).
第一薬科大学の荒牧教授、広島国際大学の竹田准教授との共同研究でペルオキシソーム増殖因子活性化受容体PPARγを選択的に活性化することを見出しました。抗糖尿病作用が期待されます
J. Toxicological Sci. 40, 223 (2015).
徳島大学の篠原教授との共同研究で「構造単純化BKA」がATP輸送作用を阻害することも見出しました。BKAの代替になりそうです。Chem Biol Drug Des 86, 1304 (2015)